ゲスト:百川伸宏(百川味噌株式会社)
ナビゲーター:田中竜男(株式会社レルヒ)
田中
早速ですが、「越後みそ」という地域商標を取得するために百川さんもかなり深く関わっておいでだと思います。組合として、中心メンバーとして越後みそを地域商標として登録しようとした経緯をお聞かせください。
百川
私はそこまで深くは関わっておらず、青木さん(あおき味噌株式会社)が主体となって取り組んでいました。
取得することになった理由はやっぱり、今まで取得に至る大きなきっかけがなかったっていうですね。これまでは割となぁなぁというか、「だいたいこの辺は越後みそでOKだよね」という感じでやっていました。一番大きなきっかけは、魚沼にマルコメさんが来たって事が大きかったんじゃないかなと思います。
田中
魚沼醸造さんですか?
百川
はい。あれは基本的に甘酒や、あるいは米麹の工場ですが、そうなってくるとみそも作れるんですよね。
マルコメさんあたり、新潟県の企業じゃない所が新潟でみそを作った時にそれは越後みそになるのかどうかとか、そういうちょっと危惧する声が出ていたわけですよね。そのときにじゃあ越後みそっていう商標を取っておこうと考え出したのが数年前です。なので、商標取得の動きは結構最近の話になります。
田中
越後みそっていう定義は自体はすごく大雑把に言えば、新潟県で作られている米みそですよね。定義ってある意味これくらいしかないんですか?
百川
そうですね。
田中
例えば、豆麹、調合みそと言いましょうか。艶というか照りを出したり滑らかにしたり、コクを出したりするためにあえて豆麹を使うのは技術的に良くやる方法ですよね。そういう事をやったものに関しては越後みそを名乗れないという事になっているんですか?
百川
いえ、今のところですね、そこまで深く記載されていないかと思いますが、基本的には新潟県で作られた米みそという事になっています。厳密にいうと今おっしゃったように大豆麹が入ったら米味みそではないという事になるかも知れませんが、実際のところ、大豆麹が入ったみそをそんなに大々的に販売している所って今ないように思います。だから実質的にはあんまり関係ないかもしれませんが、おっしゃるように鑑評会とかの所に出品するみそに関して、今後それを販売する時にどうしていくかという事は組合の中で揉む必要はあるかもしれないですね。
田中
新潟県って縦に長い訳ですよね。北は山形とかに福島に食い込む形になっているし、西は富山とかに食い込む形になっている訳じゃないですか。佐渡みそというのもありますが、その長い新潟県でつくるみそをひとくくりで越後みそと考えていいんですよね?
百川
それも微妙なところです。昔は組合が分かれていたときがありますし。でも、佐渡みそと新潟のみそと区別はされますね。
田中
仮にじゃあ佐渡みその話は置いとくにしても、新潟の長い県の土地の中でひとくくりに越後みそと呼ぶ事に対してみなさん抵抗とかはなかったですか?
例えば、僕なんかは小売の立場として北は新潟県の北は村上。西は糸魚川だし、南の端は僕らが拠点の魚沼まあ越後湯沢とかになる訳ですけど、
色々こう各事業者さんを回らせてもらっているとやはり差は感じるのですが、その中でひとくくりにされる事に対する違和感はなかったのでしょうか?
百川
私自身はありませんでした。組合がわかれていた頃の下越の組合の名前がそもそも越後みそ組合という名前でしたので。上越中越の方がどう感じているかはわかりませんが、基本的に自分たちとしては越後みそを売っているという感覚ではあるので、ひとくくりにしても、それが全部越後みそだっていう事への違和感とかはなかったです。昔からパッケージに越後みそって書いてありますし、越後みその明確な定義はありませんでしたが、みんなの気持ちの中には自分たちは越後みそを作っているという部分はあったと思います。
田中
なるほど。ところで百川さんは新潟市でご商売をされている訳で、地域としては下越地区になりますよね。下越地区のみその特徴について、百川さん自身は、どのように捉えておられますか?
百川
そこがやっぱ難しい所で、なかなか定義しづらいっていうのが昔から自分でも思っています。同じ下越であっても若干の違いはあるし、何をもって下越のっていうのが難しいですよね。
田中
下越という地域の切り方ですら広すぎるのでしょうか。
百川
そうですね。例えば沼垂エリアにしぼったとしても結局みそって工場が違うと味も違ってくるし作り方も微妙に違ってくるし。
そういう意味での差がやっぱりあるので、強いて言えば下越の越後みそっていうと全国的の中では色が濃い方の部類って言うのと、あと柔らかいって言う、この二つに関しては他とは違うかなと言う気がしますね。
田中
柔らかいと言うのは、色の話をすればね、熟成期間だとか、今現代であれば温度の管理の仕方とか、そういった所の影響があると思いますが、かたさと言う点について言うならば要は水分が多いと言う事ですか?
百川
そうですね。割と仕込み水分が多いのか大豆を柔らかく煮るのか、その辺の加減だとは思います。
田中
私もなんとなく下越エリアのみそは特に柔らかいかなあと思っています。
あと、上越エリア、あるいは中越エリアと比べると、やっぱり今百川さんがおっしゃったように下越のみその色味は濃いかなあと。下越の皆さんに標準的な熟成期間をお尋ねすると、中越地区上越地区よりちょっと長めかなと感じてます。それが結局色味に反映しているのかなと思っていました。
沼垂は醸造の町として地域を挙げてPRをしてきましたが、だんだんその沼垂からみそに限らず、醸造に関わる事業者が減ってきていますよね。その中で百川さんのところは今も沼垂で商売をされておられる訳ですけども、今意図して取り組んでいる事はありますか?
百川
そうですね、私は全国味噌工業協同組合連合会にも入会していて、全国回ったりもしていましたが、だんだんみその製造事業者が減っているとか、後継者がいないとか、そういった問題を感じています。結局このままいくと、減りはしますが、逆に入ってくる人がいないって言うのが大きくって、いずれ消滅していくようになる訳ですよね。
それをなんとか防ぐためにも、もっと一般の人に味噌つくりをしてもらうのが大事かなと思っていて、約10年前から、みそ作りキットの販売をしています。そもそも、みそというのは家庭で普通につくられていたもので、それが徐々にみそつくりが手間と捉えられたことでみそ屋さんができ、みそは購入するものになってきました。現在は、さらに進んでインスタントみそ汁やパックみそ汁みたいなものも販売されるようになりましたが、ここまでくると、みそという文化が一般の人から遠くなってしまっていると感じています。「日本と言えばみそ」とは言えなくなってきてしまったような気がしていまして、そこで原点回帰というか、「みそは自分の家でもつくるもの」という方向に持って行きたいと考えています。
田中
百川さんは手作りみその講座の講師として参加されていますよね。
講座に参加している消費者の皆さんの反応っていかがですか。
百川
そうですね、皆さんの反応はいいっていうか、興味が出ているなって思います。最近は若い人や、今までやったことない人が作ってみたいとか、っていうのが出てきているかなって結構強く感じますね。
田中
みその講座で消費者の皆さんにも作ってもらうみそは、百川さんのいくつかある商品のラインナップの中で1番スタンダードなみそでしょうか?
百川
はい
田中
ある意味、シャケの稚魚を放流するような感じですか。
百川
そういうことですよね。
一般の人が作ってくれると、同じ原材料であってもちょっとずつ違いがでてきますよね。自分でつくると彼らも愛着が湧きますし、我々プロにとっても一般の人がつくって出来上がってきたものをまた見せてもらったりしてフィードバックをいただけます。素人の人ってこんな発想で作るんだとか、こういう風なのを美味しいと思うんだとか、わかってくると言いますか。
例えば、手作りでみそをつくると大豆がちゃんと潰せなかったりするのですが、大豆が潰せてないのが逆に消費者には好意的に受け取られることがありまして、我々プロからするとあのザラつきみたいなのが悪いっていう方向に行きがちですが、一般の人は必ずしもそういうわけではない。こういった生の声を聞けるのは大きいかなと思いますね。
田中
先にみその講座の話をしましたけど、百川味噌がつくるみその特徴ってご自身で認識しているものってありますか?
百川
そうですね、最近意識しているのは基本的には癖がないっていうか、なるべくオールマイティみたいなのを目指してはいます。
というのも、みそって基本的にみそ汁、あるいは他の調理に使えますけど、みそ汁のこと考えても結局だしが主役になると私は思っています。みそはあくまでサブの立場と言うか、そういうみそを私は目指しています。以前、みそソフトクリームを作るとかみそアイスを作るとかって話をしていて、みその含有量どれくらいにしたら良いのか検討していくと、みそ入れないソフトクリームが1番美味しかったっていう笑い話があるくらいで。
みそってはっきり感じちゃうと、しっくりこない感じが出てしまう感じがして、どっちかっていうとコクを出すとか、素材を引き立たせる使い方の方が私は好きなんですよね。
誰かにレシピを教えてもらったんですけど、鶏肉のトマト煮なんていうのを教えてもらって、そこに隠し味でみそを入れると美味しいよと言われて前にやって見たら、明らかに違うんですよ。でも、明らかにみそだ!っていう味はしないんですよね。
あまり主張せずにコクだけ出せるという点がほかの調味料にはない特徴だと思っていますので、そう言うみそを目指しています。
田中
百川さんの取り組みとして、クラフトみそっていう取り組みやっていますよね。
その辺も含めて今後やっていきたいことだとか、単純にこれ百川さんのところだけではなくても、新潟県味噌醬油工業協同組合やその青年部として今後こんなことやっていきたいとか、その辺がもしあったら教えてください。
百川
そうですね、クラフトみそについてはむしろ今言ってきた事と真逆のことですが、結構個性的なみそを出すつもりで取り組んでいます。みそをあんまり使っていない一般の人とかあまり興味がなかった人にやはり興味を持ってもらいたいなと。今まで新潟ではこう言うみそが普通だったよ、と言うところをあえて違う米麹もすごくたくさん使ったみそとか、あるいは麦麹を使ったみそとかやって、少しでも入り口を広げたいって言うところがあって取り組んできました。
組合としては、ある一つの方法を、例えば組合として何十人でガーっとやるよりも、いろんな方法を5人位ずつのグループでそれぞれの思惑でやってった方がこれからの時代にマッチするんじゃないかと思っています。ニーズも多様化しているし、一つのニーズに合わせて全員が向かっていくってよりは、いろんなニーズがあるので、それに応じて自分がこのニーズに対応したいって思えば、そのニーズに対応したみそつくりやイベントをやっていくとかっていう風にしていくべきじゃないかなって思っています。だから、組合として一律でやるっていうのも1年に1、2回は良いですが、どちらかというと小さいイベントとか小さいコミュニティを作って、このテーマに賛同するもの集まれ見たいな感じでやっていった方がいいのかなと思って、でもその一つとしてさっきのみそつくりっていうのは大きな柱として私は考えています。
田中
クラフトみそつくりは、最近いろんな所でクラフトって聞くので、単にそこを狙ったのかなって思いがちですが、元々は消費者とのやり取りから始まった話でしたよね。
そういう意味では面白い企画なんだよなと思って私も期待して見ている所があるので、是非継続してもらいたいなと思いますね。
本当にありがとうございます。大変面白い話が聞けました。どうもありがとうございました。
百川
ありがとうございました。
〔お問い合わせ〕
今回の取材は、新潟県雪国の発酵食文化発信事業の一環で取り組みました。
新潟県農林水産部食品・流通課 025-280-5963
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