「発酵」を通じて新潟の魅力を深める―新潟県の取り組み―
新潟県食品・流通課では、「雪国の発酵食文化」に着目して「食の新潟」の上質なイメージを醸成するため、「雪国の発酵食文化発信事業」コンセプト検討会を立ち上げ、2019年8月から計3回、事業の取り組み方や情報発信の方法などを話し合ってきました。
メンバー
井口智裕さん(㈱いせん代表取締役)
樺沢敦さん(㈱FARM8代表取締役)
田中竜男さん(ぽんしゅ館バイヤー)
葉葺正幸さん(㈱和僑ホールディングス代表取締役)
遠藤智弥さん(㈱フォーワテック・ジャパン)
今回のシリーズでは、この検討会の様子を3回に分けてご紹介します。
最終回、新潟から世界へ。
伝えきれていなかった新潟の魅力を、発酵を通して発信
発酵を分析し、「見える化」することも必要です。例えば、酒であれば、新潟には酒蔵がたくさんあり、おいしいというイメージがすでにあります。それが感覚的な話だけでなく、エリアならではの特徴が科学的にも伝えられるようになると説得力が増し、言語の違う人にも伝えやすくなります。
同様に、発酵についても環境や風土がどのように関わっているのかを示すことが、新潟の伝えきれていなかった地域の魅力を伝えること、エリアブランディングにつながります。
その際に軸となるのは、やはり「人」。他人に対しておおらかで、一緒にみそを作るなどシェアリングできるところは、新潟県人の良さの一つです。これは人間的に豊かだからできることといえます。だからこそ、科学技術の粋を集めて研究している人から、企業レベル、家庭的なレベルでの、それぞれのノウハウが緩やかにつながっていることが、新潟県の強みになると考えられます。
そして何より、暮らしと発酵を科学的に見ようという視点を新潟がやり始めたということが重要なポイントです。
発酵を一つの切り口として、庶民の暮らしと産業を結び付け「見える化」して発信していくことが、最終的にはインキュベーション的な役割になってきます。
さらに、発酵という軸をもって再編集された情報が新潟に蓄積され、この情報に日本中、世界中からアクセスされれば、新潟が拠点となり、「新潟で何か面白いことが行われている」という認知が広がります。
「どうしてもあのデータを使いたい」、「写真を使いたい」というナレッジを蓄積していくことが、ブランド化につながります。「新潟には発酵に興味がある人がこんなにいるのか」ということを知らしめる。検索すればするほど、「発酵」と「新潟」の言葉が並んで表示されるようになると、ブランドとして相当強くなります。
県民が食文化に誇りを持つことで「世界が憧れる発酵都市」を目指す
これからの方向感として検討会の最後に示されたのは、「世界が憧れる発酵都市・新潟」。「10年後にナパバレーやシリコンバレーのようになるというビジョンがあり、今はまだ到底及ばない状況だが、それを目指そうという未来に投資できる経営者の集まりができれば」と夢を膨らませました。
また、メンバー全員が口をそろえて指摘するのは、県民自身が生活の豊かさを実感し、それを日常的に深めること。今後の県のPRは、東京だけではなく、世界を向いています。そのためには、県民自身が自分の周りの生活や食習慣に魅力や誇りを感じることが大切です。
知恵のリソースを増やすためにも、地元の人たちへの啓蒙(けいもう)活動も大事です。民間レベルでいろいろなことにチャレンジする中で、事業者は、県民との接点を増やして啓蒙を図ると同時に、県民の暮らしからアイディアを抽出して事業活動を展開するような形で、産学官に「民」を加えた取り組みも必要になってきます。「『〇〇といえば〇〇』といわれるような存在になれば、地域としてブランディングができている状態といえます。何かの分野で有名になれば、住んでいる人も恩恵を受けられる形になるはずです。そういうことを新潟でも実現できるようにしたい」とメンバーたち。
未来志向で、価値あるうねりを生み出すには、県民自身がゆっくり、じっくり「発酵」して「新潟の豊かな生活」を醸し出していくことが大事になります。
発酵は伝統食や文化ということでくくられがちですが、この検討会では過去の話ではなく、「こうなったら面白い」という未来の話であふれていました。メンバーたちは「本質を守るために変わる。地元の食文化とか、暮らしとか、誇りを守るために今変わるという意味で、これは一周回って絶対評価される」と確信していました。
遠藤さんは「これから発信される発酵を再編集した情報がアーカイブとして蓄積され、それにものづくりをはじめとする様々な立場の方たちが触れ、それぞれの事業活動にも生かしていける仕組みができるのが望ましい。今まで見えなかったものや地域を、発酵を通して可視化していく。その中で『世界が憧れる発酵都市』という方向感が出ると、発酵に関わってくる人が多くなるような気がします」と期待を寄せました。
深い。深すぎる検討会でした。
コンセプト検討会の議論をもとに、県の事業は前へ進んでいます。
気になる方はぜひ、一緒に「発酵」しましょう。
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