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「食は新潟にあり」 ♯4.本県の食文化の継承と発展/本間伸夫さんインタビュー

新潟県の発酵食を考える上で、土台となるのは何といっても新潟の食文化です。食文化を知るバイブルともいえる1985(昭和60)年に発行された『聞き書 新潟の食事』(農山漁村文化協会)の編集委員代表を務め、自身でも『食は新潟にあり』(新潟日報事業社)などの著書で新潟の食文化を紹介し続けてきた本間伸夫さんにお話を伺いました。



——本県の米中心の文化は、どのように変化してきたのでしょうか。


食文化の変化というよりは、食生活の変化になりますが、大きく変わってきたのは戦後ですね。急速に米の評価が下がっていった。1945年の敗戦によってアメリカの食文化が入ってきて、米だけに執着してはいけないと教え込まれ、さらに多様な食材が入手可能になってきたことから、食生活が多様化し米の地位が相対的に低下してきました。これは全国的な変化であって、本件も例外ではありません。実のところ、食文化がどのように変化しているかは、私自身もわかりません。



——最近の食文化の変化について感じていることは。


ライフスタイルの変化とともに食生活が大きく変わっているので、日本全体の食文化も変化せざるをえません。

とはいえ、人間はなまけものでありながら、均一を嫌います。いずこも同じを嫌う。ほかとの差別化が文化であり、郷土料理です。消えてしまったものや変容しているものもありますが、まだまだ可能性は十分にあります。その風土で特徴的に生産されているものを利用する姿勢を大切にしていけば、きっと残っていきます。「地産地消」ですね。ほかから運んでくるというのは余計なコストがかかり無駄が多く、均一になり、品質が悪くなりがちです。それを避け、適したものを利用することで、地域の農業・漁業・畜産業を振興していきながら食文化を維持していくことが重要です。努力しなければ、消えてしまいます。

何をするにしても、しっかりとした視点であるものを選び、継続性をもって売り出していくことが大事です。



——残していくべき郷土料理として特にあげるとしたら。


やはり新潟の「のっぺ」は有名です。全国に同じ名の料理がありますが、「のっぺ」なら新潟と、全国的にもそう思ってもらえているようです。それをうまく利用していくべきですね。「のっぺ」に大根が入っていないのは、私が調べたところでは本県だけです。特産のさといものぬめりを生かした、新潟県民にとって欠かせない料理です。本県に来た人にも、ぜひ味わってほしいですね。

一方で、消えてしまうのではないかと懸念しているのが、佐渡の「かや巻き団子」です。ここ数十年、あまり話に聞くことがありません。前出のように、カヤの葉で団子を包んで蒸した節句粽(ちまき)で、「たいごろう」「ごろ巻き」とも呼ばれます。本来南西地方の伝統だったものが北前船によって運ばれ定着したという歴史もあるので、何とか伝承されてほしいと思っています。


長岡市の「のっぺ」

『にいがたのおかず』(新潟県食生活改善推進委員協議会編 発行/開港舎)より



——「食の新潟」魅力アップの方策は


これは容易でない難しい質問です。多くの人が日夜苦労していることであり、簡単には答えられないテーマです。

「食の新潟」を表現するキーワードとしては、米、雪、日本海、酒、それと多様性だと考えていますが、最後の多様性は前に話しました新潟の風土がもたらしてくれたものです。ただ、何でもあるは、何にもないに通ずる危険性があります。今までの「食の新潟」の食は、清酒以外は焦点がぼけていたきらいがあります。

やはり米と雪を軸にして(清酒はすでにこの両者の範疇内)行くべきかと思います。思うのは簡単ですが、具体的には?となります。

提案の一つとして、雪と食べ物(それ自身とその演出)との関わり合いについて、総合的に研究し、検討を加え、そこから答えを引き出すことです。そして成果を大々的にPRし、新潟・雪・食のイメージを定着させることだと思います。

その一環として、「雪貯蔵」をさらに組織的に詰めることを期待します。現在、このテーマについては多方面で研究されていますが、「食と雪」に絞った総合的、あるいは多面的なものは見当たらないようです。




——米を生かした方策は?


これも難しくて大きいテーマです。答えになりませんが、考えていることの一つを披露いたします。

米を受け継いでいるものとして、米麹を利用する食文化に注目しています。甘酒や化粧品に活用されていますが、さらに積極的に、いろいろなものに活用してほしいですね。

国民のイメージとして米麹が有用だという認識はできています。新潟で米麹の研究をするということは、イメージの妥当性の上からも進めていいと思います。

例えば、甘酒を甘味料として使うとか、酵素のかたまりのようなものですから酵素として使うとか。注目していい食材だと思っています。

雪下ニンジンのジュースを、甘酒の液体の部分で割るなど、雪中貯蔵商品とのコラボレーションも面白いかもしれません。液体だけでなく、乾燥粉末、また菌の種類を黄、黒、ウサミ菌など変えてみるなど。ぜひ新潟県食品研究センターで考えていただきたいと思っています。



——郷土料理の中で、土産物に発展する可能性があるものは?


「笹ずし」と「飯ずし」は、本県を代表する伝統料理として、今後発信していくべきものではないでしょうか。ともに米を使っているものでもあります。さらにどちらも、見た目もおいしそうで、実際の味わいもいい。よくできている料理だと思います。

「飯ずし」は冬だけというのが問題ですが、これも技術でクリアできるのではないでしょうか。多分富山の「鱒(ます)ずし」も、最初は季節限定だったと想像されます。それが現在は通年、どこでも手に入る土産品になっています。「笹ずし」も、もう少し保存性を検討する必要がありそうです。

また、土産品はある程度コストがかかる高級なものでないと観光客にアピールできません。「のっぺ」は県民に愛される郷土料理ではありますが、土産品には不向きです。

旅行者を食で呼ぶという点では、新幹線沿線地域の可能性あるものを探るということも考えられますね。

上越市の「笹ずし」

『にいがたのおかず』(新潟県食生活改善推進委員協議会編 発行/開港舎)より



——最後に次世代を担う人たちへのメッセージをお願いします。


何でもそうですが、みんな同じでは本当に味気ないものです。食生活も正にそうです。このいろいろある食生活を維持しているのが、皆さんが暮らしている地域の食文化です。地域の人たちが努力して受け継いできたものです。お互いにその地域の食文化をよく理解し、受け継いで、さらに立派なものへと発展させていってください。





〔プロフィール〕

本間伸夫(ほんま・のぶお)

農学博士。専門分野は食文化論。1931年に佐渡市(旧畑野町)で生まれ、幼少時から長岡市で育つ。現在は新潟市在住。新潟大学卒業後、新潟県食品研究所で発酵食を研究、県立女子短期大学(現新潟県立大学)開設を機に教職に就く。食文化論の中でも地域性に注目し、フィールドワークを重ね、他県と比較することで新潟県独自の食文化の価値を検証してきた。その間、新潟県生活文化研究会の創立に関わり、初代会長を務める。著書は『食は新潟にあり』(新潟日報事業社)、『日本の食生活全集・聞き書 新潟の食事』(農山漁村文化協会)など。JR東日本の車内誌『トランヴェール』にも多数執筆。


〔聞き手・文〕

高橋真理子:群馬県出身。大学卒業後、絵本、生活情報誌『レタスクラブ』編集部を経て、結婚を機に新潟へ移住。フリーの編集・ライターとして『るるぶ』『新潟発』に関わり、新潟の食と酒の魅力を伝える出版社・株式会社ニールを設立。『cushu手帖』、『新潟発R』を発行。著書は『ケンカ酒 新潟の酒造り 小さな蔵の挑戦』。現在も四季折々の新潟の美味に感激し、堪能する日々を送る。


〔イラスト〕

すがい敦子:『新潟発R』2018秋冬・8号「旅するFOOD」より


〔お問い合わせ〕

今回の取材は、新潟県雪国の発酵食文化発信事業の一環で取り組みました。

新潟県農林水産部食品・流通課 025-280-5963