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「越後のみその生業について」 ♯5.現在も活躍する酵母と本県生まれの製法/今井誠一さんインタビュー


——現在県内で製造されるみその多くに使われているみそ酵母「S96株」は先生が分離を担当されたそうですね。


当時すでに分離されていた優良酵母「Y712株」は、香りは非常によかったのですが、発酵力がそれほどではなかった。そのため、メーカーから「もっと使い勝手のいい強い酵母を」という要望がありました。そこで昭和40年代初めから3~4年かけて酵母を分離して蓄え、約600株の酵母から、発酵力旺盛で使い勝手がいいものを選びました。

方法は、みそを水に溶いた懸濁培地(けんだくばいち)に酵母を培養し、香りの良否判定で50株ほどを選びました。次の段階では5キロ規模のポット仕込みで実際にみそを仕込み、5株に絞りました。最終的にはセンターの最大規模の100キロ仕込みでみそを造り、どれが一番いい香りか、アルコールを十分に作るかで選択。それが「S96株」です。



——「S96株」をどのように県内のメーカーへ頒布したのですか。


極めて生育力が旺盛で使い勝手がいいこの酵母を業界に頒布するには、一苦労ありました。昭和45年に研究所に入所した松本伊左尾さんと手分けして現場を回って説明しました。液体培養したものはそのままでは保存性が低いため、試行錯誤した結果、保存性が高い菌体だけを郵送で送り、頒布することにしました。

酵母の菌体を購入したメーカーは、現場で拡大培養をしなければなりません。普通は甘酒を薄めたような培地でできるのですが、「S96株」はこれではアミノ酸が足りず、また大豆に由来するイノシトールがないと旺盛に増殖しないことがわかりました。そこで甘酒にしょうゆを少し加えました。現在はしょうゆに替えてみそを溶いているメーカーがほとんどのようです。100倍くらいに増やす拡大培養は、攪拌しながらエアを送らなければなりません。あるメーカーで洗濯機にエアポンプを突っ込んで培養する方法を考え出したようです。



——〈田中〉メーカーさんへ行ったとき、製造所の片隅に洗濯機がおいてあり、「何に使うんですか?」と質問したら、酵母の培養という答えが返ってきて、驚きましたね。


この酵母は県外に販売はしていませんが、全国的に活用されている可能性もあると思っています。といいますのも、新潟県のみそはほとんどが殺菌をしていない生のものなんです。ですから市販のみそから酵母を分離できるのです。ちなみに、長野県など他県のみそは殺菌しているものがほとんどなので、していない場合は「生」の表記があります。新潟はほとんどが「生」なので特に表記をしていないようです。



——この酵母の開発技術がもたらしたことが他にもあるそうですね。


この技術が低食塩みその開発につながりました。酵母を通常の10倍加えることで、塩分を4%まで下げられることを究明しました。みそを酸っぱくする乳酸菌との競争に打ち勝つ力がある酵母だったのです。この頃盛んに減塩運動が行われていましたが、「みそは塩分が高い」というそしりを少しはらすことができたと思っています。



——「半煮半蒸(はんにはんむし)」の製造技術も新潟県で誕生。


昭和36年頃のことですね。大豆は蒸すと味はよくなりますが、色に冴えが出しにくい。一方で煮るとみその色に冴えは出てきますが、味に深みが出ません。煮る間に水分が溶出するため、糖質関係も溶出しおいしさを逃がしてしまう。蒸すと煮るでは一長一短がある。

それでは足して2で割ったらどうなるか。アイディアは単純でしたが、これがうまくいきました。蒸す方を主体にすれば色は多少犠牲になっても味はよくなり、煮ることを主体にすれば色はぐんとよくなるので、煮る時間と蒸す時間の条件は好みで決めることができます。

これは赤みその大豆処理法として、東北や関東一円に広く採用されています。



♯6「県産みその発展に関わった人物伝」へとつづきます


(プロフィール)

今井誠一(いまい・せいいち)

農学博士。1937年に燕市吉田(旧西蒲原郡吉田町)で生まれる。新潟大学農学部卒業後、新潟県食品研究所に入所。みそやしょうゆなどの大豆発酵食品の研究及び技術指導に従事。93年には、科学技術庁長官賞を受賞。90年から95年まで所長を務め、同年退職。全国味噌鑑評会審査員を31回務める。新潟県味噌工業協同組合連合会顧問、全国味噌技術会常任理事を歴任。著書は『食品加工シリーズ 味噌-色・味にブレを出さない技術と販売』(農山漁村文化協会)、『みその絵本』(同)。

〔聞き手・文〕

高橋真理子:群馬県出身。大学卒業後、絵本、生活情報誌『レタスクラブ』編集部を経て、結婚を機に新潟へ移住。フリーの編集・ライターとして『るるぶ』『新潟発』に関わり、新潟の食と酒の魅力を伝える出版社・株式会社ニールを設立。『cushu手帖』、『新潟発R』を発行。著書は『ケンカ酒 新潟の酒造り 小さな蔵の挑戦』。現在も四季折々の新潟の美味に感激し、堪能する日々を送る。

〔お問い合わせ〕

今回の取材は、新潟県雪国の発酵食文化発信事業の一環で取り組みました。

新潟県農林水産部食品・流通課 025-280-5963